労災認定された場合、会社にとってのデメリットは?労災隠しのリスクも解説

従業員が労働災害(労災)によって負傷し、病気に罹り、または死亡した場合、会社は労働基準監督署に対して、労災に関する報告を行う義務を負います。

しかし、労災認定によって会社に生じるデメリットを心配し、労災に関する報告や労災保険給付請求への協力を嫌がる会社も存在するようです。

会社が心配している労災認定のデメリットは、その多くが誤解に基づくものですので、今一度労災保険制度に関する正しい知識を身に着けておきましょう。

この記事では、労災認定に伴い会社に生じるデメリットや、会社側が労災を申請されることを嫌がるか、よくある誤解、さらに労災隠しのリスクなどについて解説します。

1. 労災認定によって会社に生じるデメリット|なぜ申請を嫌がるか?

労災に関する報告対応や、従業員による労災保険の申請・請求への協力に関して、会社に生じる可能性がある主なデメリットは、以下のとおりです。

1-1. 負担が増す?労災保険料の上昇・メリット制

労災保険の保険料については、「メリット制」と呼ばれる増減制度が採用されています。

メリット制とは、事業場における労働災害の件数に応じて、労災保険料を変動させる仕組みです。

メリット制に従えば、労災発生件数が少なければ少ないほど保険料が安く、多ければ多いほど保険料が高くなり会社の負担が増します。

そのため、労災保険料の上昇を恐れて、労災隠しを行う企業が一定数存在するようです。

1-2. 内部リークによるレピュテーションの毀損

会社内部で労災が発生したことが、雑誌・新聞・SNSなどでリークされた場合、会社の評判(レピュテーション)の毀損に繋がります。

このようなレピュテーションリスクを嫌がり恐れて、労災があったことにつき、従業員に対して口止めしようとする会社が一部存在します。

1-3. 労働基準監督署対応の手間

労災発生時には、労災に関する報告や、従業員による労災保険給付の請求などに関連して、労働基準監督署とのやり取りが発生します。

人員リソースに乏しい会社では、そもそもこのような労働基準監督署への対応が面倒なので、従業員に労災認定の申請をしないよう言い含めているケースがあります。

また、いったん労災認定が行われると、その後、労働基準監督署による監視が強化され、さらに煩雑な対応を迫られるのではないかと危惧して、労災隠しを働く会社も存在するようです。

2. 労災保険に関する誤解を解消|企業が知るべきチェックポイント

上記で解説した各ポイントについては、会社側に誤解が存在するケースもよくあります。

実際には、発生した労災を正直に申告するより、労災申請に正直に対応するより、労災隠しを行う方が大きなリスクを負うことになるのです。

以下では、労災保険に関してよくある企業の誤解を解くため、企業が知っておくべきチェックポイントを解説します。

2-1. メリット制が適用される会社は限られる

労災の発生件数に応じて労災保険料が変動する「メリット制」ですが、実はすべての会社に対して適用されるわけではありません。

メリット制が適用されるのは、以下のいずれかを満たす事業所のみです。

  • ①100人以上の労働者を使用した事業であること
  • ②20人以上100人未満の労働者を使用した事業であって、災害度係数が0.4以上であること

中小企業の多くは、上記①②の要件をいずれも満たさず、メリット制の適用による労災保険料の増額を心配する必要はありません。

2-2. 労災隠しが発覚した場合のレピュテーションリスクは甚大

労災が世間に発覚することを恐れるのもわかりますが、実際には労災隠しが発覚した場合の方が、会社のレピュテーションに対するダメージは大きいと考えられます。

労災自体は、どの会社でも発生する可能性があります。

そのため、労災が発生したとしても、それは必ずしも会社の労務管理がずさんであったことなどを意味しません。

これに対して、労災隠しは犯罪に該当します。

したがって、労災隠しが発覚した場合には、会社は犯罪行為を働く悪質な組織として、世間に認識されてしまうのです。

上記の点を考慮すると、単純な労災が発生したことと、労災隠しを比較した場合、労災隠しの方が深刻に会社の評判を毀損するリスクが高いといえるでしょう。

2-3. 軽微・低頻度の労災であれば、労働基準監督署の大々的な調査は行われない

労働基準監督署は、多数の会社から、日常的に労災の報告を受けています。

そのため、よほど悪質な労災事案であったり、あまりにも頻繁に労災が発生していたりする場合でなければ、労働基準監督署が特に監視を強めることはないと考えられます。

「労災の報告をすると、労働基準監督署の監視が強まるのではないか」という心配は、多くの場合杞憂であることを知っておきましょう。

2-4. 労災認定を阻止しても、従業員から損害賠償請求を受ける可能性がある

従業員に対して口止めを行い、労災保険給付の請求を阻止したとしても、会社が従業員から直接損害賠償を請求されるリスクは残ります。

そもそも労災保険給付には、本来会社が行うべき損害賠償を、労災保険が代わりに行うという側面があります。

仮に労災保険給付が支払われない場合、会社は使用者責任(民法715条1項)や安全配慮義務違反(労働契約法5条)に基づく損害賠償責任を、単独で負わなければならないのです。

思いがけず多額の損害賠償義務を負う事態を防ぐためにも、従業員による労災保険給付の請求には、誠実に協力するのが無難でしょう。

3. 労災隠しは犯罪に当たるので要注意

労災が発生したにもかかわらず、労働基準監督署にその事実を報告しないことは「労災隠し」と呼ばれます。

労災隠しは、労働安全衛生法に違反する犯罪行為であり、絶対に避けなければなりません。

3-1. 労働者私傷病報告の提出義務

事業者は、就業中または事業所内もしくはその附属建設物内で、労災により労働者が負傷・死亡・休業した場合は、所轄労働基準監督署長に対して「労働者私傷病報告」を提出する義務を負います(労働安全衛生法100条1項、労働安全衛生規則97条1項)。

この労働者私傷病報告を提出しない場合、「労災隠し」と判断されてしまう可能性があります。

3-2. 労災隠しに対して課される刑事罰

労働者私傷病報告を行わず、または虚偽の報告を行った場合には、事業者に対して「50万円以下の罰金」が科されます(労働安全衛生法120条4号)。

刑事処分を受けた場合、実際の金額以上に、会社のレピュテーションに与える悪影響が大きいと考えられます。

そのため、労災が発生した場合には、労働者私傷病報告を確実に提出しておきましょう。

4. 労災が発生した場合に企業がとるべき対応

自社内部で労災が発生した場合、会社に発生する損失を最小限に食い止めるため、以下のポイントに留意して適切な対応を行ってください。

4-1. 労働者私傷病報告の提出・労災保険給付の請求への協力

前述のとおり、会社には労働者私傷病報告の提出が義務付けられているので、速やかに提出できるように準備を進めましょう。

提出のタイミングは「遅滞なく」とあるとおり、明確な期限はありませんが、できるだけ早めに提出することが、労働基準監督署からの信頼を得るためにも重要です。

また、従業員が労災保険給付の請求について、会社に協力を求めてきた場合、協力を惜しまないようにしましょう。

もし協力を拒否した場合、従業員による損害賠償請求などを誘発するおそれがあるので要注意です。

4-2. 損害賠償請求には誠実に対応する

労災保険給付を請求するかどうかにかかわらず、従業員が会社に対して損害賠償請求を行うことは十分考えられます。

会社としては、損害賠償による目先の損失を回避しようとするのではなく、長期的な視座に建ってベストな対応をとることが大切です。

被災労働者の会社に対する感情を悪化させないため、また他の従業員に対して誠実な姿勢を示すためにも、合理的な範囲で損害賠償に応じる方が得策なケースもあります。

いずれにしても、従業員の損害賠償請求には真摯に向き合ったうえで、対応方針について適切に経営上の判断を行いましょう。

4-3. 必要に応じて弁護士に相談する

労災に関する対応、特に従業員による損害賠償請求への対応には、法的な観点を踏まえた検討が必要不可欠です。

そのため、必要に応じて弁護士にアドバイスを求めながら、法的な理論武装の下で対応を進めることをお勧めいたします。

顧問弁護士と契約をしておけば、突発的に発生した労災トラブルについても、スムーズに対処法について相談できるため、たいへん便利です。

また、顧問弁護士がいない事業者の方については、スポットでの相談は随時受け付けていますので、お気軽に弁護士までご相談ください。

5. まとめ

労災申請され認定がなされると、会社にとってデメリットが生じると考えている方もいらっしゃいますが、その多くは誤解に基づいています。

むしろ、労災認定によるデメリットを恐れるあまり、会社に義務付けられている労災の報告を怠ると、最悪の場合刑事処分が科されてしまうことに注意が必要です。

労災に関する報告や、従業員による損害賠償請求などについては、弁護士にアドバイスを求めることで、適切な対応が可能となります。

自社内部で労災が発生し、対処法にお悩みの事業者の方は、お早めに弁護士までご相談ください。

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