取締役の任務懈怠とは?該当するケース・免除できる場合・対処法などを解説

取締役の任務懈怠は、会社、ひいては株主に対する裏切り行為です。

会社としては、取締役の任務懈怠責任を適切に追及するとともに、株主からの信頼回復に努める必要があります。

取締役の任務懈怠に関する危機管理対応は、お早めに弁護士へご依頼ください。

この記事では、取締役の任務懈怠に関する会社法上のルールや、事例、実際に任務懈怠が発生した場合の対処法などについて解説します。

1. 取締役の「任務懈怠」とは?|会社法

会社法423条1項では、取締役の任務懈怠責任について定めています。

具体的にはどのような場合に、取締役は会社に対して任務懈怠責任を負うのでしょうか。

1-1. 任務懈怠=善管注意義務・忠実義務の違反

取締役の任務懈怠とは、善管注意義務(会社法330条、民法644条)および忠実義務(会社法355条)の違反を意味すると解されています。

  • 善管注意義務:会社のために、善良な管理者の注意をもって職務を行うこと
  • 忠実義務:法令、定款、株主総会決議を遵守し、会社のために忠実に職務を行うこと

1-2. 取締役の任務懈怠に該当するケースの代表事例

取締役の任務懈怠に該当する行為のパターン事例には、主に以下の3つが考えられます。

①取締役自身が法令違反等を犯した場合

忠実義務の定義からもわかるように、取締役は職務を行うに当たり、法令・定款・株主総会決議を遵守する義務を負います。

そうであるにもかかわらず、取締役がこれらの違反を積極的に犯した場合には、任務懈怠に該当することは確実です(典型的には、犯罪など)。

なお、取締役が会社の承認を得ずに競業取引・利益相反取引等を行った場合には、任務懈怠が推定されます(会社法423条3項)。

②他の取締役や管轄部署の法令違反等を見逃した場合

取締役は、他の取締役や従業員を監督する責任を負っています。

そのため、他の取締役や管轄部署による法令違反等が発見された場合、取締役が監督義務を果たさなかったものとして、任務懈怠責任を追及されるケースがあります。

このような監督義務の不履行による任務懈怠が認められるかどうかは、「その取締役が法令違反等を防ぐことを、どこまで期待できたか」という観点を踏まえて判断されます。

③【判例】経営判断のミスにより、会社に損害を与えた場合

取締役の経営判断ミスも、任務懈怠に該当する可能性があります。

しかし、取締役に適切なリスクテイクをさせるという観点からは、何でもかんでも安易に任務懈怠を認めるべきではないでしょう。

最高裁の判例では、経営判断として「著しく不合理」と評価できない限り、取締役の善管注意義務違反(任務懈怠)は認められないと判示されています(経営判断の原則。最高裁平成22年7月15日判決)。

2. 取締役の任務懈怠責任を追及する方法

会社は、任務を怠った取締役に対して損害賠償を請求できます。

取締役の責任を追及する損害賠償請求訴訟を提起する場合、会社を代表するのは以下の者です。

①監査役設置会社の場合

  • 監査役(会社法386条1項1号)

②監査役設置会社以外の会社の場合

  • 代表取締役、または株主総会・取締役会が当該訴えにつき会社を代表する者と定めるもの(会社法353条、364条)

しかし、会社が不当に取締役を庇い、適切な責任追及を行わないことも考えられます。

その場合、株主が会社のために、取締役に対して訴えを提起することも認められています(株主代表訴訟。会社法847条1項)。

3. 取締役の任務懈怠責任は、一部免除できる場合がある

取締役の任務懈怠責任は、以下の場合には免除することが可能となっています。

3-1. 株主総会特別決議による一部免除

任務懈怠につき、取締役が善意かつ重過失がないことを条件として、株主総会決議により、任務懈怠責任の一部を免除することが認められています(会社法425条1項)。

ただし、役職に応じて最低責任限度額が設けられており、免除できるのは最低責任限度額を超える部分の責任のみです。

  • <最低責任限度額>
  • 代表取締役、代表執行役 年間報酬の6倍
  • 代表取締役以外の業務執行取締役、代表執行役以外の執行役 年間報酬の4倍
  • 非業務執行取締役 年間報酬の2倍

3-2. 定款の定めに基づく免除

監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社については、定款で取締役の任務懈怠責任を免除する旨を定めることができます(会社法426条1項)。

なお免除に当たって、取締役が任務懈怠につき善意かつ無重過失であることが条件となる点、および最低責任限度額が設定されている点は、株主総会特別決議による免除と同様です。

上記の定款の定めがある場合、取締役の過半数の同意(取締役会設置会社の場合、取締役会決議)によって、任務懈怠責任の免除が認められます。

3-3. 責任限定契約に基づく免除

非業務執行取締役に限り、就任時等において、あらかじめ任務懈怠責任の免除を規定した「責任限定契約」を会社と締結することが認められます(会社法427条1項)。

責任限定契約が締結されている場合、任務懈怠につき善意かつ無重過失であることを条件として、最低責任限度額(または定款の範囲内で会社が定めた額)を除き、取締役の任務懈怠責任が免除されます。

4. 取締役の任務懈怠が発覚した場合の対処法は?

取締役の任務懈怠が発覚した場合、会社は速やかに事態の収拾に当たる必要があります。

具体的には、迅速に以下の対応をとりましょう。

4-1. 当該取締役を解任する

任務懈怠の程度が悪質・深刻な場合には、取締役の解任を検討しましょう。

取締役の解任は、株主総会決議によって行われるので(会社法341条)、他の取締役が主導して臨時株主総会を招集し、解任議案を提出することになります。

4-2. 取締役間の相互監視を強化する

任務懈怠の再発を防止するには、取締役間の相互監視を強化することが有効です。

報告の頻度・密度を増やす、複数の取締役が各部署を管轄するなどして、ダブルチェック・トリプルチェックの体制を整えるとよいでしょう。

4-3. 取締役の任務懈怠責任を追及する

前述の各方法により、取締役個人に対する損害賠償請求等を行うことも検討すべきです。

ただし、損害額が巨額の場合、取締役個人で支払うことのできる賠償金には限度があります。

また、他の取締役に与える萎縮効果も、ある程度考慮すべきでしょう。

そのため、適宜前述の免除制度を活用して、合理的な範囲内で取締役の任務懈怠を追求するのが無難です。

4-4. ステークホルダーに対する報告を行い、透明性を確保する

任務懈怠の事後処理・再発防止策・取締役の責任追及などに関する状況は、こまめに株主をはじめとするステークホルダーへ報告することが大切です。

危機管理対応がきちんとしている会社である印象を与えられれば、失ったステークホルダーからの信頼を十分リカバリーできます。

ステークホルダーに対して伝えるメッセージは、伝わり方も含めて十分に推敲する必要がありますので、適宜弁護士のアドバイスをお求めください。

5. まとめ

取締役の任務懈怠が発生すると、会社は多方面に説明や対応に追われることになります。

その中でも、きちんとした危機管理対応を行うことで、株主をはじめとしたステークホルダーの信頼を取り戻すことに繋がります。

任務懈怠に関する危機管理対応は、会社法実務に精通した弁護士にご相談なさるのがお勧めです。

取締役や従業員による不祥事が発覚した場合、お早めに弁護士までご相談ください。

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